「認知症の親が所有する空き家を売却したいが、どうすればいいのか分からない」「成年後見人を立てないと売れないと言われたが、手続きが複雑そうで不安」このようなお悩みを抱えている方は少なくありません。
高齢化が進む日本では、空き家の所有者が認知症などで判断能力を失っているケースが増加しています。このような場合、勝手に売却手続きを進めることはできず、成年後見制度を利用する必要があります。
この記事では、空き家売却で成年後見人が必要になるケースや、具体的な手続きの流れ、費用、注意点について詳しく解説します。
成年後見制度とは?空き家売却との関係を理解しよう
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な方を法的に保護・支援するための制度です。本人に代わって財産管理や契約行為を行う「成年後見人」を家庭裁判所が選任します。
なぜ空き家売却に成年後見人が必要なのか
不動産の売却は、法律上「法律行為」に該当します。法律行為を有効に行うためには、当事者に「意思能力」が必要です。認知症などで判断能力が低下している方が行った契約は、無効または取り消しの対象となる可能性があります。
つまり、所有者本人が認知症で判断能力を欠いている状態では、たとえ家族であっても代わりに売却契約を結ぶことはできません。このような場合に、成年後見人を選任して本人に代わって売却手続きを行う必要があるのです。
成年後見制度の3つの類型
成年後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて3つの類型があります。
後見は、判断能力がほとんどない方が対象です。成年後見人には広範な代理権が与えられ、不動産売却も可能です。ただし、本人の居住用不動産を売却する場合は家庭裁判所の許可が必要となります。
保佐は、判断能力が著しく不十分な方が対象です。保佐人が不動産売却を代理するには、家庭裁判所から特別に代理権を付与してもらう必要があります。
補助は、判断能力が不十分な方が対象で、最も軽度な類型です。補助人が不動産売却に関与するには、本人の同意を得たうえで代理権の付与を受ける必要があります。
空き家売却で成年後見人が必要になる具体的なケース
実際にどのような状況で成年後見人が必要になるのか、具体的なケースを見ていきましょう。
ケース1:親が認知症で施設に入所している
最も多いケースが、親が認知症を発症して介護施設に入所しており、実家が空き家になっているパターンです。施設の費用を捻出するために実家を売却したいと考えても、所有者である親に判断能力がなければ売却できません。
この場合、子どもなどが家庭裁判所に成年後見人選任の申立てを行い、選任された後見人が売却手続きを進めることになります。
ケース2:相続した空き家の共有者が認知症
相続によって空き家を取得したものの、共有者の一人が認知症で判断能力を欠いているケースもあります。共有不動産の売却には共有者全員の同意が必要なため、判断能力のない共有者がいる場合は売却が困難になります。
このような場合も、認知症の共有者について成年後見人を選任し、後見人が本人に代わって売却に同意する形で進めます。
ケース3:一人暮らしの高齢者が判断能力を失った
一人暮らしの高齢者が認知症を発症し、自宅の管理ができなくなるケースも増えています。近隣への迷惑や資産価値の低下を防ぐために売却を検討する際、親族が成年後見人選任を申し立てることになります。
成年後見人選任の申立て手続きの流れ
成年後見人を選任するための手続きについて、順を追って説明します。
ステップ1:必要書類の準備
申立てには多くの書類が必要です。主な必要書類は以下の通りです。
申立書、本人の戸籍謄本、本人の住民票、成年後見人候補者の住民票、本人の診断書(家庭裁判所所定の書式)、本人の財産目録、本人の収支状況報告書、不動産の登記事項証明書、預貯金通帳のコピーなどが必要となります。
特に診断書は、かかりつけ医に家庭裁判所所定の書式で作成してもらう必要があり、取得に時間がかかる場合があります。早めに準備を始めましょう。
ステップ2:家庭裁判所への申立て
書類が揃ったら、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、市区町村長などに限られています。
申立て時には、成年後見人の候補者を記載することができます。親族を候補者として記載することも可能ですが、最終的に誰を選任するかは家庭裁判所が判断します。
ステップ3:家庭裁判所による審理
申立て後、家庭裁判所による審理が行われます。必要に応じて本人との面談や、申立人・後見人候補者との面接が実施されます。また、本人の判断能力についてより詳しく調べるために、医師による鑑定が行われることもあります。
ステップ4:成年後見人の選任
審理の結果、家庭裁判所が成年後見人を選任します。申立てから選任までの期間は、一般的に2〜4ヶ月程度かかります。鑑定が必要な場合はさらに時間がかかることがあります。
なお、親族を候補者として申し立てても、財産額が大きい場合や親族間に対立がある場合などは、弁護士や司法書士などの専門職が選任されることがあります。
居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要
成年後見人が選任されても、すぐに空き家を売却できるわけではありません。本人の「居住用不動産」を売却する場合は、家庭裁判所の許可が必要です。
居住用不動産とは何か
居住用不動産とは、本人が現在居住している不動産だけでなく、過去に居住していた不動産や、将来居住する可能性のある不動産も含まれます。つまり、認知症で施設に入所している方の実家(空き家)も、居住用不動産に該当する可能性が高いのです。
これは、本人が回復した場合に帰る場所を確保するという観点から、居住用不動産の処分には特に慎重な判断が求められるためです。
家庭裁判所の許可を得るためのポイント
居住用不動産売却の許可を得るには、売却の必要性と相当性を説明する必要があります。具体的には以下のような事情が考慮されます。
売却代金の使途が本人のためであること(介護費用、医療費、生活費など)、売却価格が適正であること、本人が帰宅する可能性が低いこと、空き家を維持管理するコストや負担、空き家のまま放置することのリスクなどが判断材料となります。
不動産会社から査定書を取得し、売却価格の妥当性を示す資料を準備しておくことが重要です。
成年後見人による空き家売却の費用と期間
成年後見制度を利用した空き家売却には、通常の売却よりも費用と時間がかかります。
成年後見人選任にかかる費用
申立て手数料として収入印紙800円、登記手数料として収入印紙2,600円、郵便切手代として3,000〜5,000円程度、診断書作成費用として5,000〜10,000円程度、鑑定費用として5〜10万円程度(鑑定が必要な場合)がかかります。
申立て手続きを弁護士や司法書士に依頼する場合は、別途10〜30万円程度の報酬が必要になります。
成年後見人への報酬
成年後見人が専門職(弁護士・司法書士など)の場合、毎月報酬が発生します。報酬額は家庭裁判所が決定しますが、月額2〜6万円程度が目安です。また、不動産売却などの特別な業務を行った場合は、別途報酬が認められることがあります。
重要な点として、成年後見制度は一度利用を開始すると、本人が亡くなるか判断能力が回復するまで継続します。空き家を売却した後も、後見人への報酬支払いは続くことを理解しておきましょう。
売却完了までの期間
成年後見人選任の申立てから空き家売却完了までは、最低でも6ヶ月〜1年程度かかるのが一般的です。後見人選任に2〜4ヶ月、居住用不動産売却許可の申立てに1〜2ヶ月、売却活動と契約・引渡しに3〜6ヶ月程度を見込んでおく必要があります。
成年後見制度を利用する際の注意点
成年後見制度を利用した空き家売却には、いくつかの重要な注意点があります。
本人のための売却でなければならない
成年後見人は、本人の利益のために財産を管理する義務があります。空き家を売却して得た代金は、本人の介護費用や医療費、生活費などに充てる必要があります。家族の都合や相続対策のための売却は認められない可能性があります。
希望する人が後見人になれるとは限らない
前述の通り、成年後見人を誰にするかは家庭裁判所が決定します。親族を候補者として申し立てても、専門職が選任される場合があることを理解しておきましょう。
制度の利用は取り消せない
成年後見制度は、本人の判断能力が回復しない限り、途中でやめることができません。空き家売却という目的を達成した後も、本人が亡くなるまで制度が継続し、後見人への報酬支払いも続きます。
任意後見制度の活用も検討を
将来に備えて、本人にまだ判断能力があるうちに「任意後見契約」を結んでおく方法もあります。任意後見制度では、本人が信頼できる人を後見人として自分で選ぶことができます。親御さんがお元気なうちに、将来の空き家対策として検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ:専門家に相談して最適な方法を選びましょう
空き家の所有者が認知症などで判断能力を失っている場合、成年後見制度を利用しなければ売却することはできません。手続きには時間と費用がかかりますが、空き家を放置し続けるリスクを考えれば、早めに対応することが重要です。
成年後見人の選任申立てや居住用不動産の売却許可申請は、専門的な知識が必要な手続きです。弁護士や司法書士などの専門家に相談しながら、本人にとって最善の方法を検討しましょう。
また、親御さんがお元気なうちに、将来の空き家対策について家族で話し合っておくことも大切です。任意後見契約の締結や、早めの売却・活用の検討など、できる対策から始めてみてください。


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