相続した空き家を売却しようとした際、「登記簿を確認したら建物の記載が古い間取りのままだった」「増築した離れが登記されていなかった」というケースは決して珍しくありません。未登記建物を放置したまま売却を進めると、買主とのトラブルや契約解除、さらには融資審査の否認につながる恐れがあります。本記事では、空き家売却における未登記建物の問題点と、表題登記・保存登記の手続き、費用相場、実際の事例までを詳しく解説します。
未登記建物とは何か・空き家売却で問題になる理由
未登記建物とは、法務局に建物の存在が登記されていない、あるいは登記内容が現況と一致していない建物のことです。具体的には次のようなケースが該当します。
- 昭和30〜40年代に建てられた古い母屋がそもそも登記されていない
- 本体は登記されているが、後から増築した部分(離れ・車庫・物置)が未登記のまま
- 建て替えを行ったのに、旧建物の滅失登記と新建物の表題登記が漏れている
これらは特に地方の空き家で多く見られます。かつては固定資産税の課税さえされていれば実務上大きな問題にならなかったため、登記を後回しにしていた所有者が少なくないのです。しかし売却の段階になると事情が変わります。買主が住宅ローンを利用する場合、金融機関は担保となる建物の登記情報を確認します。登記簿と現況の床面積や構造が異なっていると、担保評価ができず融資が下りない、あるいは減額されるという事態が起こります。
また、売買契約においては「登記された建物」を前提に代金や引渡し条件が定められるため、未登記部分があると契約書の記載と実態にズレが生じ、後々の契約不適合責任を問われるリスクも高まります。仲介業者や司法書士が事前調査で未登記を発見した場合、決済日の直前になって手続きが間に合わず、契約自体が延期・白紙になることもあります。空き家売却を検討する段階で、まず登記簿謄本(登記事項証明書)と固定資産税課税明細書、そして実際の建物を照らし合わせて確認することが第一歩です。
未登記建物を放置して売却するリスク
「未登記のままでも売れるのでは」と考える方もいますが、実務上は多くのリスクを伴います。まず一つ目は融資リスクです。買主が住宅ローンを利用する一般的な取引では、金融機関は建物全体(増築部分含む)を担保評価の対象にします。未登記部分があると評価額が下がり、希望額の融資が受けられず契約が破談になるケースが実際に多く報告されています。
二つ目は、買主側の心理的な不安です。登記簿と現況が一致しない物件は「違法建築ではないか」「本当に自分の所有物になるのか」という疑念を抱かれやすく、内見時の印象や交渉力に悪影響を及ぼします。特に増築部分が建ぺい率・容積率をオーバーしている場合、単なる未登記だけでなく違反建築物として扱われ、売却価格が大きく下がることもあります。
三つ目は法的リスクです。不動産登記法では、建物を新築・増築した場合、原則として1か月以内に表題登記を申請する義務があります(不動産登記法第47条)。これを怠ると10万円以下の過料が科される可能性があります。相続で取得した空き家の場合、被相続人の代から未登記のまま放置されていることもあり、売却前に発覚して慌てて対応するケースが後を絶ちません。
さらに、未登記建物を含む土地・建物を売却する際、告知義務を怠って買主に伝えずに契約を進めると、引渡し後に発覚したときに契約不適合責任を追及される可能性があります。損害賠償請求や契約解除に発展すれば、売主にとって大きな金銭的・時間的損失となります。したがって「登記されていないから安く早く売れるだろう」という楽観的な考えは非常に危険であり、事前の是正が結果的に売却をスムーズにする近道です。
表題登記・保存登記の手続きと費用相場
未登記建物を売却前に整理する方法は大きく分けて二つあります。一つは建物表題登記を行い正式に登記簿へ反映させる方法、もう一つは増築部分を解体・撤去して現況を登記内容に一致させる方法です。どちらを選ぶかは、建物の状態・価値・買主のニーズによって判断します。
表題登記を行う場合、まず土地家屋調査士に依頼し、現況測量・建物調査を実施します。調査士は建物の種類・構造・床面積を確定し、「建物表題登記申請書」を作成、法務局へ申請します。費用相場は建物の規模にもよりますが、一般的な木造2階建て住宅で8万円〜15万円程度、増築部分のみの追加登記であれば5万円〜10万円程度が目安です。加えて、既に所有権保存登記がされている建物であれば、増築部分を「附属建物」として登記する表題変更登記が必要になる場合もあり、この場合も費用は概ね同水準です。
手続き期間は、書類収集から登記完了まで通常3週間〜1か月程度を見込んでおくとよいでしょう。相続が絡む場合は、被相続人名義のままでは登記できないため、先に相続登記(2024年4月から義務化)を済ませておく必要があります。相続登記と表題登記を同時並行で進めるケースも多く、司法書士と土地家屋調査士が連携して対応することが一般的です。
一方、増築部分が老朽化していたり、違反建築で是正が難しい場合は、解体して現況を登記内容に合わせる方法も選択肢になります。木造の離れ・物置程度であれば解体費用は50万円〜100万円程度が相場です。どちらの方法を取るにせよ、売買契約の前に司法書士・土地家屋調査士・仲介業者と早めに相談し、決済日から逆算してスケジュールを組むことが重要です。
事例:未登記の増築部分がある空き家を売却したケース
Aさんは、亡くなった父親から実家の空き家を相続しました。築45年の木造住宅で、20年前に父親が業者に頼んで台所とお風呂場を増築していましたが、登記は当時のまま変更されていませんでした。仲介業者に売却を依頼し、内覧希望者も現れ順調に進むかに見えましたが、買主が住宅ローンの事前審査を申し込んだところ、金融機関の担当者から「登記簿の床面積と現況が一致しないため、担保評価ができない」と指摘され、審査が保留になってしまいました。
慌てたAさんは仲介業者の紹介で土地家屋調査士に相談し、現況調査を実施。増築部分は約15平方メートルで、建ぺい率・容積率の範囲内に収まっていることが確認できたため、建物表題登記を行うことになりました。調査士による測量・図面作成に約2週間、法務局への申請から登記完了までさらに2週間かかり、合計で1か月ほどの期間を要しました。費用は調査士報酬と登録免許税を合わせて約12万円でした。
登記完了後、買主の住宅ローン審査は無事に通過し、当初の予定より1か月半遅れではあったものの、無事に売買契約・決済まで進めることができました。Aさんは「もっと早く登記簿を確認していれば、売却activities全体がスムーズに進んだはず」と振り返っています。この事例からも分かるように、空き家売却を検討する際は、まず登記簿と現況の照合を最優先で行い、必要に応じて早めに専門家へ相談することが、後のトラブル回避と円滑な売却につながります。
よくある質問
Q1. 未登記建物のまま買取業者に売ることはできますか?
A. 買取業者への売却であれば、住宅ローンを利用する個人買主と異なり、業者は現金決済や自社ローンで対応することが多いため、未登記のままでも取引自体は可能な場合があります。ただし価格は市場価格より1〜2割程度低くなる傾向があり、業者によっては登記是正を条件にするところもあります。仲介より買取の方が融通は利きますが、最終的な手取り額は下がる点を理解しておく必要があります。
Q2. 未登記建物を放置して過料を科されることはありますか?
A. 不動産登記法上、新築・増築後1か月以内に表題登記の申請義務がありますが、実務上すぐに過料が科されるケースは多くありません。しかし相続登記の義務化に伴い、法務局による指導や調査が強化される傾向にあり、売却のタイミングで発覚し、指導を受けるケースは増えています。放置期間が長いほど手続きが複雑になるため、早めの是正をおすすめします。
Q3. 増築部分だけを解体して売却する場合、費用はどのくらいかかりますか?
A. 木造の離れや物置程度の小規模な増築部分であれば、解体費用は50万円〜100万円程度が目安です。ただし配管の切り離しやアスベスト含有建材の有無によって追加費用が発生することもあるため、事前に複数の解体業者から見積もりを取り、比較検討することが重要です。解体後は建物滅失登記または表題変更登記も忘れずに行いましょう。
まとめ
- 未登記建物とは、登記簿に記載のない、または現況と内容が異なる建物のことで、古い母屋や増築部分に多く見られる
- 未登記のまま売却を進めると、買主の住宅ローン審査に影響し、契約破談や契約不適合責任のリスクが高まる
- 是正方法は「表題登記・表題変更登記」または「増築部分の解体」の2択で、費用相場は表題登記で8万〜15万円、解体で50万〜100万円程度
- 相続が絡む場合は相続登記を先に済ませる必要があり、手続き全体で1か月前後の期間を見込んでおく
- 早期に登記簿と現況を照合し、司法書士・土地家屋調査士へ相談することでトラブルを未然に防げる


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