親から相続した空き家を、子や兄弟など身内に売却したいと考える方は少なくありません。第三者に売るよりも話が早く、相手の素性も分かっているため安心感があります。しかし親族間売買には、一般の不動産売買とは異なる独特のリスクが潜んでいます。特に「みなし贈与税」の問題や住宅ローンの利用制限は、知らずに進めると数百万円単位の思わぬ税負担につながることもあります。本記事では空き家売却専門のブロガーとして、親族間売買を検討している方が押さえておくべき注意点を具体的な数字とともに解説します。
親族間売買とは?空き家売却で選ばれる理由
親族間売買とは、親子・兄弟姉妹・叔父叔母など血縁関係にある者同士で不動産を売買することを指します。空き家売却の現場では「実家を相続したが自分は遠方に住んでいて管理できない。近くに住む弟に売りたい」「共有名義になっている実家を、共有者の一人が他の共有者から買い取りたい」といったケースでよく発生します。
親族間売買が選ばれる理由は主に3つあります。1つ目は仲介手数料を節約できる可能性があることです。通常の仲介売却では売買価格の3%+6万円(税別)が仲介手数料の上限となり、2000万円の物件であれば66万円程度かかりますが、当事者同士で直接交渉すれば仲介会社を介さない分のコストを抑えられる場合があります。2つ目は物件の状態や経緯を相手がよく理解しているため、インスペクションや詳細な告知を省略しやすいという心理的ハードルの低さです。3つ目は空き家を手放したくない、家系で守りたいという感情的な理由から、あえて身内に引き継がせたいというケースです。
ただし、これらのメリットを過信すると後述する税務リスクに直面します。「身内だから」という安心感が、かえって適正な手続きを省略させてしまい、後々のトラブルの火種になることも珍しくありません。
みなし贈与税のリスクと時価の考え方
親族間売買で最も注意すべきなのが「みなし贈与税」です。これは売買価格が時価より著しく低い場合、時価と売買価格の差額が贈与とみなされ、買主に贈与税が課税される制度です。税務署は「身内価格だから安くしてもいい」という考え方を認めていません。
具体例で考えてみましょう。時価2000万円の空き家を、親族間だからという理由で800万円で売却したとします。この場合、差額の1200万円が贈与とみなされる可能性が高く、贈与税の基礎控除110万円を差し引いた1090万円に対して贈与税率(一般税率で45%〜50%程度)が適用されると、数百万円単位の贈与税が発生する計算になります。実際の税額は累進課税のため細かい計算が必要ですが、500万円前後の納税義務が生じるケースも珍しくありません。
適正価格をどう算出するか
このリスクを避けるには、適正な時価を客観的に示す必要があります。具体的には不動産鑑定士による鑑定評価書を取得する方法があり、費用相場は20万円〜35万円程度です。また、不動産会社3社以上から査定書を取得し、その平均値を参考に価格を決める方法も有効です。査定自体は無料で依頼できる会社が多いため、鑑定評価より手軽に時価の根拠を残せます。重要なのは「なぜその価格にしたのか」を書面で説明できる状態にしておくことです。税務調査が入った際に、査定書や鑑定書を提示できれば、恣意的な値下げではないことを証明しやすくなります。
相場からの乖離がどの程度まで許容されるかについて明確な基準は法令上ありませんが、一般的には時価の80%以上を目安にする専門家が多く、それを下回る場合は税務署から指摘を受けるリスクが高まると考えられています。
住宅ローンが使えない問題と資金調達の工夫
親族間売買のもう一つの大きな壁が、住宅ローンの利用です。金融機関の多くは、親族間売買を住宅ローンの対象外としています。理由は、ローンを組んで得た資金が実質的に贈与や資金移動に使われる「融資の目的外使用」を懸念しているためです。特に親子間・配偶者間の売買は審査段階でほぼ門前払いになる金融機関も多く、兄弟間でも厳しい審査が課されるのが実情です。
対応策としては、まず親族間売買に対応している金融機関やノンバンクを探すことが挙げられます。審査は通常の住宅ローンより厳格で、金利も通常より0.5%〜1.5%程度高めに設定されることが一般的です。また、司法書士や不動産会社を仲介者として正式な売買契約書を作成し、登記手続きも第三者を交えて適正に行うことで、金融機関の心証を改善できる場合があります。
資金調達が難しい場合は、分割払いによる売買契約を検討する方法もあります。ただしこの場合も、利息を設定しないと利息相当分がみなし贈与と判断されるリスクがあるため、市中金利を参考にした利息設定が必要です。さらに、売買契約書には支払い条件や所有権移転のタイミングを明確に記載し、公正証書化しておくことで後々の「言った言わない」トラブルを防げます。
事例:兄弟間での空き家売却でトラブルになったケース
実際にあった事例を紹介します。都内在住のAさんは、地方にある実家を相続しましたが、遠方のため管理が難しく、実家の近くに住む弟のBさんに売却することにしました。時価は不動産会社の査定で1800万円程度でしたが、兄弟仲が良かったこともあり「お互い様だから」と1000万円で売買契約を結んでしまいました。
契約自体は口約束に近い形で進め、司法書士には登記手続きのみを依頼し、価格の妥当性については特に確認しませんでした。しかし翌年、税務署から弟のBさんに「お尋ね」が届き、差額800万円に対してみなし贈与税が課税されることになりました。基礎控除を差し引いても、最終的に約250万円の贈与税を納めることになり、兄弟間で「事前に相談してくれれば査定書を取ったのに」という気まずい雰囲気が生まれてしまいました。
このケースの教訓は、親族間だからこそ事前の価格根拠の準備と専門家への相談が不可欠だという点です。もし事前に不動産会社3社の査定書を取得し、時価の80%〜90%程度の価格で契約していれば、贈与税のリスクを大幅に下げられた可能性が高いと考えられます。
よくある質問
Q1. 親族間売買でも不動産会社に仲介を依頼できますか?
可能です。むしろ専門家を介することで、適正価格の算定や契約書作成、重要事項説明が適切に行われ、後のトラブルを防ぎやすくなります。仲介手数料はかかりますが、トラブル防止のコストと考えると十分見合う場合が多いです。
Q2. 3000万円特別控除は親族間売買でも使えますか?
原則として、生計を一にする親族や配偶者、内縁関係にある者への売却は特別控除の対象外とされています。ただし別生計の兄弟姉妹など、条件によっては適用できる可能性もあるため、税理士に個別確認することをおすすめします。
Q3. 相場より安く売ること自体は違法ですか?
売買価格を自由に決めること自体は違法ではありません。しかし著しく低い価格設定は贈与税の対象となる可能性があるため、「違法ではないが税務リスクがある」という理解が正確です。
まとめ
- 親族間売買は仲介手数料の節約や手続きの簡便さがメリットだが、税務リスクに注意が必要
- 時価より著しく安い価格で売却すると、差額に贈与税が課税される「みなし贈与」のリスクがある
- 適正価格の根拠として、不動産会社の査定書(複数社)や鑑定士の評価書(20万〜35万円程度)を用意する
- 住宅ローンは親族間売買に対応していない金融機関が多く、金利が高めのノンバンクを検討するケースもある
- 分割払いを選ぶ場合は利息設定を忘れず、契約書は公正証書化しておくと安心
- 専門家(不動産会社・司法書士・税理士)を介して手続きを進めることが、後のトラブル防止につながる


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